行動量を落とさず、踊り場を乗り越える

成長 自己実現

「とりあえずやる」という言葉を、気に入っていますが、実際には用途を考える必要があります。

初期の「とりあえずやる」は有効

特にモチベーションが高い時は、この言葉の持つ魔力に気を付けた方がいいでしょう。

やるべき事が数多くあって、絞り切れていないのに、例えば1分1秒のスピードを要求されるご商売でもない限り、朝の貴重な時間に、テンポよく全てのメールに返信したことに満足して、気付いたら昼過ぎだった、というのは避けなければなりません。

一方で、自分とっての新たな試みや挑戦に絞った時、「とりあえずやる」は大変に有効です。

というより、新たな事に対してモチベーションが高い時こそ、素早く着手する必要があります。

新たに取り組むことに、経験がなく、知識も乏しい段階では、さっさと水の中に入って、見よう見真似で手足をばたつかせた方が、泳ぎのフォームを陸上でいくら練習するより、早く泳げるようになります。

問題は状況を把握した後

初期段階の効能はよく見聞きするので、「とりあえずやる」を意識されている方は、多いかと思います。

問題は、モチベーションや衝動頼みには限界があり、最終的な成果まで1割にも到達していない、この段階より後のことです。

多くの場合、新たな世界のルール、登場人物の属性などが、何となく分かった段階ではないかと思われます。

また、目立った成果が出ていない状況であるため、当初のモチベーションは低減しつつあります。

こんな時は、他人の言ったことや話題になったこと、さらに、今置かれている現実の「やるべきこと」に引っ張られます。

そして、「わざわざ新たな事をやらなくったって現状は維持できるし、今週は忙しいから、時間ができたらやろう」となります。

しかし、残念ながら「時間ができたら」という日は訪れません。

なぜなら私たちは、「やるべきこと」がいっこうに減らず、「やらないよりやった方がいい」こと、すなわち、ベターなことに溢れた世の中を生きているため、次々とベターなことが押し寄せてきて、いつのまにか、時間を絡め取られています。

そして、より良く変わるために決意したはずの、新たな試みは風化していきます。

行動モードを変える

こうならないよう、新たな環境を体感したと認識したら、目標を達成するための行動量を高いレベルで維持するモードに、切り替えることが重要です。

行動に直結するのはタスク化ですが、タスクの並列や一覧だけですと、ここでまた挫折の谷が待ち構えています。

2002年にノーベル経済学賞を受賞した、ダニエル・カーネマンが著した『ファスト&スロー』には、以下の一節があります。

認知心理学における重要な発見の1つは、あるタスクから別のタスクに切り替えるのは困難だということである。

とりわけ時間的余裕がない時に、そう言える。

 

『ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか?』 (ダニエル・カーネマン 著、ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

例えば、「社員を採用する」という大きなタスクだけでは、実行できないため、さらにタスクを分解する必要があります。

思いつくだけでも、採用媒体を選ぶ、募集文章の他社事例を集める、自分で書いてみる、他の人からレビューをもらう、修正する、予算を決める確認する、出稿メニューを決める、掲載をスタートする、書類を見て書類選考する、面談者とのスケジュール調整する、面談で聞きたいことを考える、面談する、検討会議を開いて採用者を決定する、採用者に連絡し入社日を調整する、などがありますし、人によってはもっと出てくるかもしれません。

しかし、これでも実行できる方は、限られているのではないでしょうか、少なくとも私には実行できません。

タスクの構造化

必要なのは、因果関係や前後関係が分かる、タスクの構造化やチャート化です。

私達は、順序や構造が明確になっているものに対して、過大なモチベーションを必要としませんし、タスク同士の関係性も理解できることで、 全体像を眺めながら、個々のタスクに取り掛かることができます。

あくまで私のやり方ですが、ご紹介させていただきます。

登場人物それぞれの立場で、全体の流れと行動を想像し、縦軸と横軸を決めます。

横軸は、時間軸の情報で、縦軸は、分解が必要な大きなタスク(大項目)である場合が多いかと思います

その上で、これはイメージですが、細いポストイットに1つのタスクを記載し、大きな模造紙の上に、左から右に時系列で、因果関係が前後しそうなタスクを無造作に貼り、タスク同士を眺めながら貼り替えたり、矢印で結んだり、囲みを書いたりします。

実際は、手帳で、頭に浮かんだタスクを時系列や前後関係を大雑把に想像し、何となくのスペースに記載して、一通りタスクを出し尽くしたら、次に、タスク同士を矢印で結んだり、囲みで括るなどの作業を行います。

全体の流れと因果関係、あるいは大項目同士を意識すると、さらに必要なタスクが出てきますが、どの大項目の、どのタスクの前後かが理解でき、すでに記載したタスクとの因果関係や前後関係も、すぐに明らかになります。

これらのことが可能なITツールも一時期使っていたのですが、私には使い勝手が悪く、今は、手書きで手帳をこねくりましています。。

慣れてくると、そのタスクが全体のどの辺になりそうか、直感的に分かるようになり、手帳も綺麗に使用でいます。

他にも例えば、Googleカレンダーのタスク管理は便利ですが、残タスクの管理ぐらいにしか使ってません。

ちょっと個人的な細かな話で、しかもテキストのみだと伝わりづらい内容だと思いますが、ご興味ある方は参考にしてみてください。

マネジメントの中での位置付け

タスク構造化の、業務マネジメント全体での位置付けは、半期や四半期計画書とタスク一覧の、間ぐらいのイメージです。

組織はある規模感になってくると、計画書に基づいて事業運営されることが多いかと思いますが、 その場合、関係者と計画書自体の合意が必要となりますよね。

一方、タスク構造化は、誰かにプレゼンするものではなく、自身やチームの行動に焦点を当てた飾りの必要がない、実践的なものです。

こうして、タスクを順調に消化するようになる、すなわち、行動の質と量を確保している状態になります。

にも関わらず、結果が出ない、何も変わらない、そんな新たな状況に直面します。

やがて、時間が経過すればするほど、 やっていることや自らを疑い始めます。

行動しても結果が出ない時の対処法

結果というのは、どこまで行ってもコントロールできないため、結果を気にせず、手立てに集中することが肝要です。

営業マン時代の体験

私の社会人スタートは、化粧品メーカーでの営業職でしたが、既存取引が中心のルートセールスに向いておらず、入社後に配属された支店で、半年で3つの取引先から出入り禁止となりました。

今思えば、かなり慇懃無礼で、礼儀知らずな言動でしたので、当然の結果だったのですが、当時は心が折れそうになっていました。

そんな事を棚に上げて、営業という職種は、新規開拓ができて初めて語れる資格があるのではないか、という思い込みから、既存取引先にはあまり行かず、新規開拓の活動にいそしみましたが、こちらも当然ながら、結果は出ませんでした。

幸いにも直属の上司は、そんな私の気持ちを知ってか知らずか、既存取引先に行っていない事実を知りながら、あまり咎めることはありませんでした。

また、テレアポや訪問件数や、活動内容を報告していると、とても褒めてくれたのを憶えています。

やがて、アプローチした100社のうち1社、80社のうち1社と、契約できるようになり、少しづつ確率が上がってくるのですが、 ある契約率(契約数/アプローチ数)からは向上しませんでした。

テレアポ業界の常識

また、SNSでの発信や、営業マッチングサイトなどによって、商品・サービスの販売に繋げようとされる事業者は多いですし、話題になりやすいですが、知り合いのテレアポ営業支援会社への依頼は、全く絶えないそうです。

その役割は、顧客の取引先とのアポイントを、数多くセッテイングすることですが、商品やサービスの特徴などにより、ある程度のアポイント比率まで高まると、 その後の比率は一定になるとお聞きしました(もちろん多少の個人差はあるようです)。

社長はスタッフに対して、「今日は○件電話する」という活動・行動目標を提示し、「○件アポを取ったか」という結果は気にしなくて良い、と指導されているそうです。

今に集中して、行動を確保する

目標や成果を過剰に意識しすぎる、あるいは、結果を出さないと上司に怒られるなど、「未来」を意識しすぎると、足がすくみ、具体的な行動へのマイナス作用が働き、悪循環になってしまいがちです。

しかし、目の前の「現在」やるべきタスクに意識が向いていればいるほど、物事は確実に進み、結果的に成果が生まれます。

何件アポを取るかという「未来」ではなく、何件電話するかという「現在」が重要なのです。

こうして、放っておけば無限に入り込んでくる、数々の雑音を押し退け、疑うことなく継続して行動していれば、必ず目標に近づいていきます。

広義のビジネスは、投資と経営に分けられると思われます(もちろん経営にも投資要素がありますね)。

投資は予想ですが、経営は意志であり、投資は他人の仕組みでアービトラージ(裁定取引)を狙う営みですが、経営は独自の仕組みを構築する営みです。

すなわち経営や事業は、「意思決定」と「行動」に尽きるのがではないでしょうか。

最後に、農政家・思想家である二宮尊徳の言葉をご紹介させていただきます。

キュウリを植えればキュウリとは別のものが収穫できると思うな。

人は自分の植えたものを収穫するのである。

 

『代表的日本人』(内村 鑑三 著、岩波文庫)