ルールに則るのは誰のためか

ルール バイアウト

先日、違反点数が3点以下の軽微違反が、累積6点になった人向けの、交通違反者講習に行ってきました。免許停止処分にならないための講習ですね。

受講すると、行政処分(免停30日)が課されず、違反者講習の対象となった点数(6点)は以後の違反に累積されず、処分前歴も付かないとのことです。

日常、車に乗らない生活から15年以上経っていましたが、子供が生まれてからは、自宅近くの10台以上から選べるカーシェアリング拠点を利用して、最低2週間に一度、場合によっては、土日両方とも、終日運転するようになりました。

本当に6点はあっという間でした。

運転に対する危機感の低さや驕りだとか、妻には怒られましたが、特に駐車違反の取締りは、緑の制服の駐車監視員が、ちょっと自宅前に止めておいたらキップを切られ、過剰な取り締まりじゃないかと、腹立たしく思っておりました。

交通講習の内容は素晴らしい

平日の日付指定で、朝から夕方までの講習通知が来て、貴重な時間を強制的に剥奪され、腹立たしい気持ちで教室に入ると、老若男女20名ぐらいがいらっしゃる訳ですが、皆、憮然とした表情 、不愉快そうな顔で開講を待っていました。

私は、新卒で入った化粧品メーカーで、いわゆる営業車で移動する営業職をしていた時期に、免許停止を2回受けているので、ことさら恐怖感や不安感を煽るような講義内容も予想がつきました。

加害者や被害者の手記、インタビュー、再現 VTRなど、最初は他人事でした。

しかし、徐々に双方への同情や、居た堪れない気持ちになる一方、恐怖感や自分を律する気持ちが生まれていることに気付きます。

それは、教室中の誰からも感じ取れました。

法律を守らなければ、取り締まる。取り締まらなければ、事故が起きる。

事故が起きれば、加害者と被害者の人生は台無しになり、その苦悩は計り知れません。

講師は最後に、交通規制や法律、取り締まり、様々な交通講習などの一連の目的を、一言でまとめます。

「皆さんと皆さんの家族や、その財産を守るためです。」

私を含めた受講生全員、警視庁の狙い通り、見事に他人事から自分事になっており、分かりやすい事例紹介、事故を起こさないノウハウ、診断テストに基づいたアドバイスなど、非常にありがたい学びの機会を頂いたなと思い、帰宅しました。

会社経営と交通講習の共通点

前置きが長くなりましたが、この講習の受講後、思い起こさずにはいられなかったのは、自分のバイアウト(会社・事業売却)のことでした。

M&A仲介会社に、売却を相談するところから始まる訳ですが、そこから数ヶ月間、デューデリジェンスや売却交渉となります。

しかし、この遥か前の、案件として動き出す前に、勝負はついているなと、つくづく思います。

会社や事業の収益性、過去と未来の成長性はもちろん重要です。

これに加え、様々な法や合理的判断に則って、大人の会社運営をしていないと、売却価格の下方修正の口実となったり、契約・実行タイミングの後ろ倒し、場合によっては、どこにも売れない会社や事業となります。

1回目の健康食品・化粧品メーカーの会社売却時は、この認識も知識もなく、自社の都合がいい経営をしていたこともあり、デューデリジェンス中に、何年も遡って事実確認を行う羽目になったり、取引先に事務作業を依頼して迷惑を掛けるなど、上場企業である買い手企業の信頼を失いかけ、危うく売却し損なう経験をしました。

私のような遵法精神に欠ける人間でも、手痛い経験をすると、さすがに気をつけるようになります。

2回目、3回目のバイアウト時は、デューデリジェンスに慌てることなく、交渉そのものに時間を割くことができました。

ルールに則る方が得する

1回目の数々の失敗を反映し、「面倒だったけど契約書を交わしておいて良かった」、「無駄な費用だと思ってたけど、専門家に依頼しといて良かった」、「あそこと揉めたけど、関係を修復しといて良かった」など、バイアウト狙いで始めた会社ではなかったですが、いつ、誰に見られても、やましくない経営を心掛けていました。

買い手側は、収益性や成長性で魅力を感じたからもっと知りたい、となる訳ですが、それ以外で、いくつもクリアする対象があります。

思いつくだけでも、全ての登場人物との契約書、法務、財務・税務、ITシステム、組織体制、人材マネジメント、株主関連など、それぞれそれなりのボリュームがあり、買い手候補によって重視する対象が違いますが、一般的な基準をクリアする必要があります。

法務では、私のケースだと、一番売れている健康食品のパッケージ表示の中で、薬機法に触れる疑義が発生し、「これはダメかもな」と思いながら、東京都庁に何度も足を運んで、奇跡的に体裁を整えることができました。

また、ITシステムでは、後輩の会社がサイト売却しようとした時の話ですが、サイト開発言語のレベルが高過ぎたため、買い手候補は何社も興味を持つものの、その言語での運用や追加開発の難易度が高過ぎることから、売却できず、今も塩漬けになっているそうです。

すなわち、社長がいくら売りたくても、収益性や成長性以外のそれまでの運営状況が原因で、売れない会社や事業があります。

また、佳境の時には、毎日のように弁護士、会計士、M&A仲介会社と連絡を取り合い、最大の協力者となりますが、協力者の信頼を得ることができなければ、当然ながらプロジェクトは破綻します。

社内では、契約が終わるまで、社長だけ、もしくは経営陣だけで極秘に進めるケースがほとんどであるため、相談相手は彼らだけになります。

彼らにとっては、案件の一つでしかないと思いますが、文字通り「戦友」となり、終了後も長いお付き合いとなります。

毎回、本当に総合格闘技だなと思うのですが、案件化前の社長のマネジメントに対するスタンスによって、結果は大きく左右されます。

逆に、収益性や成長性が不足していても、ルールに則った会社運営をしていれば、先方がシナジー効果や投資効果を見込んで、成立する場合もあるようです。

「皆さんと皆さんの家族や、その財産を守るため」

交通講習の、ただの決め台詞かもしれませんが、この言葉はルールに則ることの意味を表す、重い言葉ですね。