2回目の起業 その2

打ち合わせ 起業

元タレントの女性がCEO、その弟がCTO、私がCOOのチームで、スタートして1年が経過しましたが、結婚の出会いを提供するインターネットサービスは苦戦していました。

集客への認識の甘さ

管理画面などのバックヤードはともかく、ユーザーから見えるサイトは、それなりに完成度が高いものと自負していました。

雑誌やウェブメディアのパブリシティに、何度か取り上げられたこともあり、いいサイトだから必ず利用してくれるはずだと、高をくくっていました。

それに対して競合サイトは、1人のユーザーが購入した金額が、そのユーザー獲得時の費用を上回る場合、もしくは、1回の利用では下回っていても、リピート利用によるトータル金額(顧客生涯価値)が、ユーザー獲得時の費用を上回る場合、広告を出稿し、トライ&エラーを繰り返していましたが、私達は集客というアクションを軽く考えていました。

その後、男女の出会いに関する記事を継続して掲載すると、グーグルの検索経由でユーザーが流入してくるようになりました。

また、このサイトとは別に、婚活イベントサイトを立ち上げて、定期的に数十人のイベントを開催するようになりました。

参加者の半分ぐらいは、アナログで知り合いなどから集客し、残りはサイト経由で集客して開催していましたが、真剣な出会いという本来の目的には程遠いものの、惰性でイベントを開催し続けていました。

ミッションが明確になり、ピボットを実施

そんな中、2011年の東日本大震災が起こります。

これを契機に、様々なところで、家族や恋人、友人など、身近にいる人との絆の大切さが語られ、絆を深めようという機運や行動が触発される中、一時的に成婚も増加しました。

私達はこの時期に、事業という手段ではなく、目的であるミッションを、改めて議論するようになります。

私達はユーザーに対して、「結婚をしよう。幸せな家庭を築こう。」という姿勢で臨んでおり、それには本人の意欲や決意、具体的なノウハウが必要な場合もあります。

私達はこう考えるようになります。

渡したい価値は、全部をお膳立てすることではなく、自分が決意し、行動できるようになる言葉なのではないか。

「言葉で行動のきっかけを提供しよう」という考えに、収斂されていきました。

そこからCTOの発案で、具体的なサービスとして、未婚者の課題を網羅する情報メディアを、2011年の後半に立ち上げます。

いわゆるピボット(事業の路線変更)を実行し、それまでの事業を止めていきました。

ユーザーからの悩みを受付け、それに対して専門家が記事として回答する、というスタイルでスタートしました。

事業は順調に成長

CEOの人脈でライターを確保しながら、サイト内でもライターを募集し、毎日掲載する記事を増やしていくと、トラフィックが伸び始め、ニュースポータルサイトであるエキサイトニュースから記事を掲載したいという申し出を頂き、全記事を配信するバーターとして、ユーザーをこちらにナビゲーションする契約を結びます。

その後も、ヤフー、サイバーエージェント、LINE、スマートニュース、KDDIを始めとしたIT企業と、同様の取引が始まりました。

同時に、グーグルの検索エンジンのガイドラインに沿った、ホワイトハットSEOをSEO対策の根幹の置いて取り組み、検索経由の数多くのユーザーにも閲覧してもらいました。

トラフィックは毎月のように最高値を更新し、最終的には1,000万PV以上のサイトへと飛躍します。

また、2011年頃の宇都宮で、地元飲食店を巻き込んだ婚活イベント「街コン」が生まれ、地方都市から都心部でもブームとなりました。

地方創生と婚活という、2つの課題を解決する考え方が支持を得て、その業界団体ができ、衆議院議員による婚活議員連盟が発足したり、商工会議所や自治体が婚活イベントを開催するようになるなど、官民挙げて、未婚化を改善しようという気運が盛り上がっていきました。

2013年からは、既存サイトと同様の編集方針により、既婚者を対象とした、ママ向け情報メディアも始めました。

ライターは、すでに執筆している方でも、既婚者向けの記事が書ける方が多く、編集や執筆ノウハウはすでに確立され、ニュースポータルサイトからも信頼を得ていたため、数ヶ月後には、同様に全記事を配信させてもらう契約を続々と結んでいきました。

こうして、短期間で新サービスを立ち上げることができたのです。

当時、テレビなどで活躍していた女性タレントが、出産を機に、ママタレントとして活躍し始めるパターンが増加しつつある状況でした。

また、もともと幼児教育を手掛けている大企業、リアルなママコミュニティ、育児をサポートするNPO法人、乳幼児制度を運用する自治体などの団体とも、スポットで提携させて頂きながら、サイト自体も1,000万PV近くまで伸ばすことができました。

未婚化・少子化は悪化し続ける

私達の事業自体は、順調に推移しておりましたが、2010年代の中盤、未婚化・少子化は改善するどころか、悪化していました。

国立社会保障・人口問題研究所「出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)」や、内閣府「少子化社会対策白書」が、以下の未婚化・少子化に関する動向や数字の根拠です。

大きな問題は2点ありました。

1つは、未婚化・少子化はすぐに改善するものではないものの、予想を遥かに下回って推移している点です。

2010年前後の見通しでは、楽観的な見方、悲観的な見方の双方が論じられていましたが、この悲観論さえ認識が甘く、出生数・出生率とも低下し続け、2016年以降は、年間で100万人を割るのがあたり前となりました。

もう1つの問題は、様々な主体が共通認識として捉えていた、未婚化・少子化の真因(真の原因)が間違っていたということです。

2016年に発売された、『超少子化』(NHKスペシャル「私たちのこれから」取材班 著、ポプラ新書)では、以下のように記述があります。

中京大学教授・松田茂樹さんは「現在の少子化の原因は、様々若い世代の未婚化であり、その主要因は雇用の劣化である。

収入が低く、雇用も不安定であれば結婚生活を送ることが困難だ。

少子化を止めるなら非正規雇用者の所得を向上させなければいけない」としている。

実は2000年代前半、厚生労働省も独身男性の非正規雇用者数と少子化に相関があるデータをつかんでいた。

元厚生労働事務次官で東京大学特任教授の辻哲夫さんは、少子化対策の必要性は政府の誰もが認識していたと振り返りながら、こう打ち明ける。

「男性の非正規雇用が少子化へ影響を与えている、というデータはもっていた。

ただ、当時はそのことが大きな課題になっていなかった。私の記憶では、それをメインの対応策とする状況にはなかった。

結果的には、当時、少子化対策を断行すべきという切実感が低かったのだと思う。」

 

『超少子化』(NHKスペシャル「私たちのこれから」取材班 著、ポプラ新書)

2010年代始め、成婚数が増えれば、その後は切れ目ない施策の後押しがあり、少子化改善へと自然に結びつくという考えが、大前提でした。

対象年齢者への調査を行うと、未婚化や晩婚化の原因のうち、「出会いの場がない」が様々な調査で1位であったため、一昔前であれば考えられないことですが、男女の出会いイベントにも税金が投入されました。

一方、内閣府の「少子化社会対策白書」では所得や雇用形態との相関関係を、10年以上前から指摘していましたが、前出の「超少子化」でも記載ある通り、全体の風潮としては素通りされていました。

つまり、前者の「出会いの場がない」に対しては、行政を始め、様々な事業者、自治体が取り組みを強化していましたが、真因である「働き方の問題」と未婚化・少子化を関連づけて、本格的に議論されることはありませんでした。

当事者の内、男性若年層は、雇用や将来不安、長時間労働から、恋愛することに時間や金銭を掛けることは、コストパフォーマンスが悪いとするものの、結婚したいという意向は高く、主従を履き違えた合理性が、自らの首を絞める状況になっています。

市場は拡大し続けるも、活動意義は薄らいでいく

私は、もはや一事業者が扱う課題ではないと、考えるようになりました。

もちろん、私達の情報メディアには、毎日のように悩みを頂き、切実に悩んでいる方がいらっしゃることを、恐らく一般の方より承知していました。

また私自身も、自分達のメディアや他社サービスを参考にしたり、利用したりして助かったことは、一度や二度ではありません。

また、ビジネス寄りで考えれば、恋愛・婚活市場、結婚市場、妊活市場、育児市場、キラキラママ市場と、対象市場に広がりがあることに加え、総じて拡大傾向であり、そこで商売されている経営者ともお付き合いさせて頂いたり、広告の出稿も頂いていました。

しかし、目の前で起こっている問題に対して発生主義的に対応し、自分達の業績は伸ばせても、未婚化・少子化の根本原因に働きかける活動でなければ、自分がやることではないという結論に至り、経営メンバーと議論するようになります

「ユーザーを集客できているのだから、関連するサービスを開発すればいい」、「現に困ってる人に役立っているんだから、意味がある」などの意見に対しては、私も同意見でした。

ただ、サービスとして継続できれば、ユーザーには迷惑が掛からない訳で、自分がやるかどうかとは、別問題です。

また、中心事業である情報メディアという特性からも、既存サービスとシナジー効果が見込める他事業者が運営することで、利用する人にとっては、メリットが増えるであろうと考えていました。

さらに、その時は漠然とではありましたが、働くことを軸とした人生全般について、皆さんと一緒に考えていきたいと思うようになり、このブログの出発点となります。

その後、一冊の書籍をきっかけに「人生100年時代」があちこちで議論されるようになりましたが、個人的には、2017年に発売された『未来の年表』(河合 雅司 著、講談社現代新書)、2018年に発売された『未来の年表2』(河合 雅司 著、講談社現代新書)で、今置かれている状況や、訪れる未来を確認することをお勧めします。

特に前者は必読だと思います。ここ数年以内でも、驚くような未来が待ち受けています。

2017年 女性の3人に1人がすでに65歳以上
2020年 女性の2人に1人が50歳以上
2021年 介護離職が大量発生
2024年 3人に1人が65歳以上の超高齢社会が到来
2025年 東京都の人口減少が始まる

『未来の年表』(河合 雅司 著、講談社現代新書)

また、日本の未来の特徴は、例えば、AIが人材不足を補う切り札と言われていますが、その開発者自体が不足して開発が滞るなど、解決策自体に別の問題をはらんでいる、八方塞がり状態であり、筆者は「静かなる有事」と名付けています。

ちなみに同書では、未婚化・少子化は改善することはなく、できることといえば、可能な限り時間を遅らせるだけと、根拠を持って記述されています。

いつの時代にも、楽観論と悲観論がありましたが、これはただの悲観論でしょうか?

景気や金融市場などは、因果関係があると思われる情報の対象範囲が広く、関係性も複雑であるため、その不確実性から、意見が割れるのは不思議ではありません。

人口は、データからの将来予測が明確な事に加え、例えば、人口が1億人を切るリードタイムも明らか、という特徴があるため、主観が入りにくい結論に至る、数少ない事象ではないかと思います。