社会人になると、海に泳ぐ機会自体、極端に減るかと思いますが、行かれる方の中でも、近場で海水浴というより、南国の島に出掛ける方も多いのではないでしょうか。
日本の海水浴場と、海外の南国リゾート
伝統的な海水浴場と海外の南国リゾートで、思い浮かぶ要素を列挙してみると、全く違うことに気付きます。
日本の海水浴では、海の家、蝉の声、サザンオールスターズ、瓶ビール、醤油ラーメン、温泉宿などが思い浮かびます。
南国リゾートでは、空港、白い砂浜、青い海、ハワイアンミュージック、トロピカルジュース、カクテル、マリンアクティビティなどを、思い浮かべます。
核となる訴求ポイントが、「海で遊ぶ」という点は共通していますが、両者は全く違う世界観を提供しています。
これに加え、予算や自宅からの距離など、前後の文脈も関係しますが、提供している世界観の要素自体の差異は、決して優劣にはなっていません。
日本の懐かしい海水浴の雰囲気を、ハワイに行って味合うことはできませんし、逆も然りです。
要素を分解し、再現すれば満足できるかというと、まがい物感が出てしまう可能性の方が高いのではないでしょうか。
この場合は、比較できてしまうため、劣っていることが際立ってしまいます。
予算的にも時間的にも、現地に行くのが困難である方にとって、海水浴場にある真っ白なハワイアン風の海の家は、一定のニーズがあるのだと思いますが、良くても悪くも本場の疑似体験に留まります。
世界観のマジック
世界観を構成する要素の1つに、「歴史」があります。
日本の海水浴でいえば、明治時代までは、海に浸かって体に波を当てたり、海気を吸うことが、一種の信仰的色彩のある民間療法だったそうです。
大正時代に入ると、海水浴が余暇的色彩も帯び、ある時期までは、砂浜で水しぶきをあげて騒ぐ若者と、静かに海気を吸い、療養する年配者が混在する光景が一般的でした。
その後は、各地で街づくりや別荘地開発、保養地開発など、より一層、余暇的色彩を帯びていきます。
一方、ハワイの海洋文化は、ネイティブ・ハワイアンの古代から伝わる風習や文化が色濃く残っています。
自然に神の存在を見出し、自然を崇拝しながらネイティブ・ハワイアンは暮らしてきました。
特に、海の周辺では、海を奉るフラなどの踊り、ハワイアンミュージック、独特の衣食住文化など、ライフスタイルに溶け込んでいったのです。
どちらが良いとか、優劣があるとかではなく、全く歴史が違うため、そこで体験できる世界観が異なるわけです
そして、世界観にどっぷり浸かりたいがために、移動に半日掛けてでもハワイを目指し、日常より高い食事をして、帰ってきたら見向きもしない置物まで購入します。
これが、世界観を構築でき、独自性をまとうことで享受する、提供者側の大きなメリットです。
すなわち、世界観は、購入の判断力や価格の制御を外すマジックとなります。
世界観をビジネスに取り入れる
この構造を、ビジネスコンセプトとしたのがスターバックス・コーヒーです。
約50年前にシアトルで開業した同社は、白熱灯の間接照明、木目の北欧風の家具や、観葉植物、フレンドリーな接客などによって、歴史あるカフェ文化を具体化し、「仕事場でも自宅でもないサードスペースで過ごしてみませんか」というメッセージを届けています。
スターバックスに行ったら、こういう気分になって過ごせるという「時間の品質保証」を訴求しているわけです。
他チェーンと比較して、コーヒーの味などの基本機能が、必ずしも高くないことに加え、価格が高いにも関わらず、客足が途絶えませんし、店舗数も拡大しています。
最初の来店時は、メニューの価格が気になるかも知れません。私は気になったのを覚えています
しかし、一旦、その世界観に満足してしまえば、他店ではなく、スターバックスに再来店するという、好循環が生まれます。
コーヒーを求める人にとっては、数あるコーヒー店の中の一つではなくなり、近くに店舗があるのか探す対象となり、人によってはコーヒーを飲むためではなく、時間が空いたら駆けこむ対象となります。
もちろん人によって好みがありますから、昔ながらの喫茶店の雰囲気が好きな方もいれば、価格勝負のチェーン店に行かれる方もいらっしゃるでしょう、それは人それぞれです。
しかし、その世界観にはまった人は、他にない独自性が突き刺さった訳ですから、太く、長いお付き合いになるのは言うまでもありません。
私たちも、ビジネスの上で取り入れていきたい、考え方ではないでしょうか。