会社経営の中で、弁護士さんや会計士さんなどの専門家に助けられた経験は、一度や二度ではありません。
法律などのルールを踏まえた上で、自社に合った現実対応や運用方法を指導いただけるかどうかが、問題解決に大きく影響するものです。
専門家からの支援
私も、以前に税務署から税務調査を受けた際、顧問会計士が、ルールからすると白とも黒とも言い切れない事案を、当局に対して交渉していただいたお陰で、大変に助かったことがありました。
ルール内での最適な解釈や、ロジカルな交渉術には、目を見張るものがありました。
こういった場面で必要となるのは、広くて深い「知識」の引き出しではないでしょうか。
登攀者(とうはんしゃ)の存在
一方で、専門家といってもその道の経験者や登攀者(とうはんしゃ)から支援を受ける場合もあります。
専門家自身が、自分のなりたい将来の姿を成し遂げた人だからこそ、その人に依頼したいと思うわけですよね。
大概の分野では、教科書的なものはすでに存在しているものです。
しかし、その濃淡や状況による対応、半歩先、一歩先に発生することなどは、実際に経験した人にしか分かりません。
ビジネスに大きな戦略は必要ですが、細かい業務の積み重ねによってしか、成果を成し遂げることはできません。
書籍にも書いておらず、セミナーで語られることもない、実践して分かる独自ノウハウが行く末を決めてしまうケースが少なくないのです。
そんな内容が、門外不出の独自の方程式として言語化されていれば、幾ら払ってでも手に入れたいと思うものです。
2種類の専門家
独自方程式の礎となるのは、創意工夫によって生み出された「知恵」の集積です。
「知識」は解釈や運用が重要であり、部分の現実対応や個別対応が課題です。
「知恵」は独自性や再現性が重要であり、全体の構造化や言語化が課題です。
読売ジャイアンツ創立者・初代オーナーで、読売新聞社、日本テレビなどの代表を歴任した、元政治家でもある正力松太郎氏は、以下のように述べています。
専門家というものは全体の関係は見ていない。専門家の知識は使うべし。しかしそれに飲まれてはいかん。
これは主に前者を指していると思われますが、例えばM&Aでは、ルールに則った専門知識によって交渉を有利に運ぶために、専門家を必要とします。
ただ、会社や事業の持つポテンシャルは規定されているため、交渉を有利に運ぶことができたとしても、効能やメリットは誤差の範囲に留まります。
全体文脈が独自性をつくる
そもそも高値で売れる会社や事業を作るためには、成長性や仕組みが最大のポイントであり、意図的、偶発的を問わず、数年以上かけて積み重ねてきた全体文脈への認識が肝要です。
独自の文脈で築いてきた、独自ノウハウや独自方程式は「知恵の塊」です。
買収したい側は、独自性や差別性を期待しているから取り込みたいわけであり、それを生み出すためには、実践の場で起こる「知恵の創造や触発」に意識を向ける必要があります。
スキルやテクニックの世界ではありません。
このため、全体に関わる真の後押しができる専門家が、その道を登攀(とうはん)した者に限定されることは、言わずもがなであることが分かります。