経営者個人と組織の価値観

成長 マネジメント

落語の小ばなしの一つに、こうあります。

江戸に遊びに来ていた 商人が、お供に言った。
「これから、あちこち見物に行く。この辺りは同じような建物が多い。 宿屋の目印を覚えておくように」
「へえ、分かりました」
一日中、江戸の町を歩き回った後、 帰ろうとしたが、はて、宿屋がなかなか見つからない。心配になった商人が、お供に聞いた。
「いったい何を目印にしてたんだい?」
「へえ、屋根にカラスが2羽、止まってたはずなんですが」

変わってしまう対象を目印にすれば、目的地にたどり着くことはできません。
笑いの中にも、 実に味わい深い教訓があります。

経営者個人と組織の価値観の関係性

私たちは、環境や周囲の意見、また自分の感情に振り回されがちです。

世間の評判やメディアの情報は変化するものですし、人の感情ほど移ろいやすいものはありません。

自身が決めた道を迷わず歩むには、何ものにも揺るがない不動の信念を持つことが不可欠だと思いますし、そうありたい。

皆さま同様、私も心の中で何度唱えてきたことでしょうか。

経営者である場合は、経営理念やミッションなど、例えばホームページに掲載するなどで、組織の行き先を示す言葉が必要な場合があります。

特に従業員や取引先、株主など、利害関係者が多ければ尚更です。

この中で、経営者個人の価値観と組織の価値観との関係にどう折り合いをつけるか、ということを悩まれる方は多いのではないでしょうか。

私自身、このテーマのヒントになりそうなセミナーに参加したり、書籍を読み漁った直後に経営理念を作成して、「理想的なものが出来たぞ」と思うのですが、数ヶ月後に改めて見直してみると、「なんか、しっくりこないな〜」と思うことが何度もありました。

何人かの経営者や支援先の社長とこのテーマについて話す機会がありましたが、同様の経験をお持ちで、主観も大きく関係し、そもそも正解があるようでないため、つくづく難易度が高いなと思います。

極端な話、「できるだけお金儲けしたい」という経営者個人の願望を、組織の経営理念っぽく「当社は利益最大化を目指し、できるだけ儲ける会社です!」と発信する方はいらっしゃらないかと思います。

個人の価値観を、組織の価値観に投影しようとする。この時、組織の価値観は、濃淡があるにせよ顧客や従業員などの利害関係者を始め、社会を意識せざるをえません。

私も、少しでも格好良く見えるように、魅力的な会社に見えるように、練りに練ったはずの経営理念に対して違和感を感じ始めた後も、発信を迫られる場合や、すでにホームページなどに掲載している場合は、出来合いの言葉で対応してきた、というのが正直なところです。

しかし、色々な方と接している中で、世の中には、個人の信念が狭く「自分や身内」や「自社」のみではなく、広く「社会」を良くするために尽力したいと、心から思っていらっしゃる方が一定数いらっしゃいます。

組織の価値観の類型

人間の「器」ってやつでしょうか、決して建前などではなく、この心境に至ってる方は本当に羨ましいと思います(私も常にそうありたいと願いっています)。

聞き方は様々でしたが、数多くの経営者の話をグルーピングすると、以下のように分かれそうです。

  1. 個人の信念と組織信念が、ほぼ同じである方(主語が違うだけ)
  2. 同一ではないものの、個人と組織の信念に一貫性があり、違いは対象のみである方
  3. 一貫性はなく、あえて個人と組織の信念は分けている方
  4. 組織のみ必要があったので作ってみたものの、個人は不明な方(価値観がない人はいないので、把握できなかったというのが正確かもしれません。)

また傾向としては、ご自分の名前で稼働するようなご商売(士業やアーティストなど)の方は、経営者個人と組織の信念との乖離が相対的に低くく、モノや標準化されたサービスを販売する組織を経営されている方は、相対的に乖離が大きいようです。

後者の場合、モノや教育された従業員を通じて、顧客に価値を提供しているという特徴があります。

経営者の成長が全て

しかし、個人と組織の乖離の大小は結果の話であり、経営者個人が本心から高い価値を提供したいと考え、その価値提供のために集まったメンバー全員に浸透させ、浸透具合を継続的にマネジメントできているか、につきるのだと思います。

すなわち、事業特性や企業規模が問題なのでななく、経営者が本心から提供したい価値が何かが問題であり、さらに申し上げるならば、経営者自身の視野の幅、興味関心の高低、欲求レベルの高低を、真の要因として捉える必要があるのでははないでしょうか。

ホームページで、本心でもない立派な言葉や美辞麗句を並べてみても、自分に嘘はつけませんし、勘のいい社員は分かっています。

本心から価値を渡したいと思える対象が、自分や身内より友人に、友人より社会の1人1人にと広がっていく、経営者自身の人格的な成長に尽きるのかもしれません。