起業相談で多い悩みの1つは、今の勤務先を辞めるタイミングですが、副業を、起業のトライアル機会にしている方も多いかと思います。
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副業している人はサッカー型
昼間は本業である勤務先に専念し、早朝や夜に副業を行えるようやりくりするというのが一般的かと思いますが、この状況はサッカーのイメージに近いのではないでしょうか。
バスケットボールやアイスホッケーも同様ですが、サッカーではチーム力の指標の1つに、攻守の切り替えの速さがあります。
味方の選手がボールを持っているときは、 全員がポジションの中での攻撃の役割を果たす。
その後、ボールを取られれば、全員が守備モードに素早く変更することが、失点を防ぐ第一歩となります。
副業の方が忙しくなれば、 本業か生活の時間を割り当てざるを得なくなる。
逆も然りですが、本業との両立には、モードが変わった時の切り替えや、継続的なセルフマネジメントがポイントですよね。
副業の目的
副業される方のモチベーションは、大きく分けて2つの視点ではないでしょうか。
換金が目的
1つは、スキルや経験を換金するという視点です。
誤解を恐れず申し上げれば、金銭の未充足、やり甲斐の未充足にしても、そもそも副業している方は、今の勤務先に100%コミットしているわけではありません。
これは所属組織のオーナーシップなどによる当事者意識も絡みますので、良い悪いということではなく、自分という存在へのオーナーシップや当事者意識が勝つのは当たり前の話です。
その上で、会社を経験やスキルを換金できる対象として捉え、時間をマネジメントして金銭の最大化を図るというのは、ベターな戦略です。
7割の企業が依然として副業禁止と見聞きしますが、これは労働時間というより、当事者意識を喪失させる誘因になってしまうことへの不安が、起因しているものと思われます。
業界によって濃淡はありますが、労働力不足やテクノロジーの進化などにより、副業が可能な環境が整っていますし、お金をもらいながら次のキャリアを模索できるお得な取り組みに見えます。
しかし、スキルや経験を換金する視点を重視されている方は、自分以外の何らかに対して当事者意識が生まれにくいため、実際に起業される方は多くありません。
起業が目的
もう1つの副業される方の視点は、起業準備です。
起業を前提に、副業は外部の世界を知るための機会と捉えているため、何時までに今の状況を終わらすという、締め切りを設定されている方が多いのが特徴です。
マインドとしては、新しい世界に踏み出すための副業と、これから廃棄しようとする本業との間で、心理的な葛藤が存在しているのがよく分かります。
新しいことへの期待に胸を膨らせて片足を突っ込みながら、自分の未来図には描かれていない、従来の仕事に従事する時間は、居心地がいい訳はないため、可能な限り短縮されようとされます。
向こう岸に渡るためには、今いる岸から足を離さなければなりません。
起業型、換金型のどちらか一方の方もいらっしゃいますが、両方の要素を併せ持っている方が大半であることも確かです。
いずれにしても、起業を念頭において副業をしている方は、現在の「サッカー型」を終わらし、攻撃と守備が明確な「野球型」に変える必要があります。
野球型のキャリア
野球の攻撃時は、ヒットで出塁して盗塁したり、あるいはバントしたりなど、絶え間なく攻撃の打ち手を繰り出しますよね。
出塁し続けていれば、攻撃が続くことになりますが、しばらくすると不都合なことに気付きます。
点数は10点入ったけれども、あとアウト1つでチェンジとなる。
そうするとベンチでは、ピッチャーがブルペンで肩を温め始める、内野手同士が強打者対策の守備シフトを確認する、などの動きが出てくるのでしょう。
ある期間は全員が攻撃モードで、潮目が変わると、全員で守備モードになる。
起業した人はこのベクトルで動くことで、大きな果実を手にすることができますが、目減りする資金を見ながら、時間との戦いが存在していることも事実です。
終焉と向き合った人のみに訪れること
そう考えると、「サッカー型」で勝とうというのは虫が良すぎるというか、仮に失敗した場合にご本人も後悔するのではないでしょうか。
「自分は起業に向いてなかった」という、もっともらしい言葉で自分を慰めたところで、どうにもなりません。
このためにも、1つの目標に向かって行動する視点が重要なのですが、 今やっていることが不安になるのか、別の新たなこともやり始め、二足三足のわらじを履くという行動を取りがちで、リスク回避ばかりに目を向ける方が少なくありません。
米国のウィリアム・ブリッジズ氏は、 人生の転機や節目を乗り切るのに苦労している人を研究する臨床心理学者です。
キャリアの節目を乗り切るためには「何かが終わる」、「ニュートラルゾーン」、「何かが始まる」の3段階が必要であると提唱しています。
第1段階の「何かが終わる」では、離脱、アイデンティティの喪失、覚醒、方向感覚の喪失など、心理的な痛みを伴います。
第2段階「ニュートラルゾーン」は、何かが終わることに伴うさまざまな喪失感を受け止めながら、それに耐える段階です。一人で考えながら、自ら方向づけを行います。
第3段階の「何かが始まる」では、他者との対話などを通じて、少しずつ目標に向けたプロセスが始まっていきます。
ここでは「始まる」がスタートではなく、「何かが終わる」ということから始まっている点が肝要です。
キャリアや人生の「節目」は、「何かが始まる」ことではなく、むしろ「何かが終わる」時期だということです。
「何かが終わる」ことで「何かが始まる」とも言えるわけですが、多くの方は「始まり」 ばかりを注目し、「何が終わったのか」、「何を終わらせるのか」という質問に答えないまま、新たなことを始めようとしがちです。
多くの被験者に基づいたブリッジズの研究では、転機や節目をうまく乗り切れなかった方は「終わり」に向き合い、それに伴う行動が十分でなかった、と結論づけています。
自身の状態を見極める
この点は、日本で人生100年時代の議論のきっかけとなった、リンダ グラットンの『LIFE SHIFT』でも同様のようです。
同著の主旨の1つに、「長い人生における余白期間の重要性」というメッセージがありました。
副業で手探りされている起業準備中の方は、決して焦ってはいけませんが、上記のイメージに基づいて検討されることをお勧めします。
また、自身のマインドや取り巻く環境から、全く行動が伴える気がしないようであれば、スキルや経験の最大活用に留まることをお勧めします。
同じことは、そこそこ業歴のある組織についても言えます。
組織を取り巻く環境
業歴が5年以上の会社は、単一事業かもしれませんし、複数事業を手掛け、事業ポートフォリオの観点から費用配分や投資判断を行っていることが多いかと思います。
一方で、インターネット業界だけでなく、昔からあるリアルな商売も早いサイクルで変化を遂げようとしています。
例えば、野菜を生産して販売する農家。
これまでは農協などから卸売市場を通じて、 青果店やスーパーの流通以外で販売する選択が取りづらい状況でした。
しかし、豊洲市場の移転問題で見聞きした方も多いと思いますが、卸売市場の取扱量は、年々減り続けています。
その代わりに、全国の「道の駅」への直接販売、農家自身によるインターネット通販、インスタグラムのライブ配信機能を利用したライブ通販など、チャネルのイノベーションが起こり、これまでの販売チャネルを介さない選択肢が広がりつつあります。
江戸時代から続いてきたビジネスモデルが衰退していく時代に、うまく行っている事業があるにも関わらず、変化に対応できるリソースがない上に、利益が出ていない事業を抱えている企業は少なくありません。
組織の終焉との向き合い方
この状況で最もやってはいけないことは、放置です。
大手術を行うのか廃棄するのか、の意思決定を行う必要があります。
うまくいっていない理由が、業界やビジネスモデル自体の衰退にある場合もありますが、自社のリソースと合っていない場合も多く、中古品販売が「メルカリ」に、印刷業が「ラクスル」になど、多くの既存業種でリプレイスが起こっています。
すなわち、植え替えられれば生き返る事業が、数多くあるということです。
設備投資などの表面的な話ではなく、ノウハウ、技術、人材、価値観レベルで対応でき、軌道に乗せられるかどうかの話なのです。
イラストで見た新居を買い、新品のベッドを購入して起こること
競争率の激しい人気タワーマンションで実際にある話ですが、イラストでしか見たことのない新居を購入し、新たに大きなベッドを購入したものの、玄関を通れなくて泣く泣く返品する事例が、あとを絶たないそうです。
行ったこともない場所に、買ったばかりの新品が使えなくて呆然する。
使っていたベッドが玄関を通れなくて捨てざるを得ない状況であれば、玄関からの導線を計測後にベッドを購入すればいいだけの話で、誰でも思いつくことだと思います。
ただ、事業でも平気でやってしまいがちなのです。(事情によって簡単にいかないことも承知した上でお伝えさせていただいていますので、悪しからず。)
廃棄や終焉に向き合わないことによって、個人のキャリアでは時間というリソース、組織では時間に加えて、キャッシュというリソースを失い続けます。
最後のまとめ
さて、キャリアの節目に限定しますと、自分の希望や想像もしなかった世界に行くには、セルフマネジメントという小さな枠から飛び出し、一時の混乱や混沌を受け入れる土壌も重要です。
具体的には、日々の生活に必要な金銭的な部分ですが、近親者の理解を得ながら、いざという時のリスクヘッジが必要であることも確かです。
しかし、「終わらす戦い」がスタートであることは、最後に改めてお伝えさせていただきます。