M&Aの売却側リーダーは誰か

林道 バイアウト

M&A件数の80%以上は、年商1億円以下から約10億円までの中小・ベンチャー企業が占めています。

かつてエグジットと言えば、株式公開のイメージのみでしたが、かなりの割合でバイアウトを選択される経営者が増えているようで、セミナー後のアンケートや懇親の機会では実感することが多くなりました。

創業者利益+時間

バイアウトは、創業者利益に加えて、時間を手に入れることができます。

同じエグジットでも、株式公開した場合はさらに頑張らねばなりませんし、会社を成長させるために、買収する立場になりますから、経営者の時間はさらに公のものとなります。

売却する立場とは全く逆のベクトルですね。

M&Aでの成果は、経営成果と直結する

さて、セミナーなどで最も多い受講者のご感想は「難しいと思っていたM&Aが、そうでもないことが分かった」です。

この印象はおそらく、大型M&Aの報道やM&Aの書籍やセミナーなどで、会社や事業の評価方法であったり、売買手続きであったりなど、金融や法律視点のものが多いことが理由かと思われます。

誤解を恐れず申し上げると、会社の売り買いなんて、卸売市場で取引される魚や野菜と何ら変わりありません。

美味しい魚や野菜や、その季節の初物は、品質そのものや希少性などから、価値が高いと評価されて高値になります。

会社や事業の価値は、日頃の経営活動で顧客に価値を提供する活動を、健全に運営できているか否かによります。

それっぽい用語を使えば、収益性、成長性、独自性という言葉になりますが、売却を検討する際も同様の価値基準がベースとなります。

会社や事業を違う場所で再現できるか

ただし、売却する際に顕在化しその成否にも影響する点は、運営主体が変わっても「再現性」が確保できるかどうかです。

すなわち、社長も含め「その人がいないと成り立たない」属人的な事業ではなく、仕組みが確立されていることが肝要なのです。

また、「買収する側にシナジー効果が必要ではないか」というご質問も頂きましたが、あくまで先方の事情で先方が判断することなので、事前に判断できることはできません。

飲食業を買収するネット企業の事例など、想像とは違う事例が数多あるぐらいですから、相手の事情は分からないものです。

繰り返しになりますが、M&Aと言っても、日頃の経営活動を通じて顧客に価値を提供する以外は、枝葉の話なのです。

このため、多くの方が抱く「会社を売るのは難しそう」というイメージは、自分で何度か売却をした身からすると違和感を感じざるを得ません。

売却する側のリーダーは誰か

もちろん、弁護士さんや会計士さんなどの手を借りないと支障が出ることも確かですが、法務や会計のルールに則っているかの確認と、法務上のコミュニケーションが必要な場合に力を借りる程度に止まります。

例えば、10年経営した会社を6ヶ月のやり取りで売却したとします。

10年間、積み重ねた仕組みによって顧客に提供していることが本質的な価値であり、その上で売却交渉の6ヶ月では、それを正しく表現するのに専門家の力を借ります。

受験勉強でも、試験まで2ヶ月前の総仕上げが活きるのは、それまで積み重ねてきた2年以上の月日があるからです。

総仕上げの前に、足腰の強い会社や事業になっていなければ、そもそも買いたいという企業は現れません。

その上で、売却する側のフロントに立つリーダーは、会社や事業のプロとしてリーダーシップを発揮しながら、会計や法律のプロを使う必要があります。

会計や法律はルールですからロジックが明確であるため、事業を詳しく理解していない人にも任せることが出来ます。

バイアウト時の留意点

ルールを熟知した経験豊富な「サッカーの主審」は、サッカー自体の実力が高くないのが普通ですし、そのことに文句をいう人はいません。

すなわち、売却する際のリーダーを審判に任せるのは、お門違いということです。

ご自身がリーダーシップを発揮しながら会計や法律の専門家を使うのか、その役割を果たせる経験者に代理を依頼するのか、サポートしてもらうのかの選択肢となります

リーダーを主審に任せてはいけないことは、ご理解いただいたと思いますが、それをやられてしまう例は枚挙にいとまがありません。