補助金は諸刃の剣

落胆 マネジメント

毎年この時期は、倍率が高い事業系の補助金(経済産業省や農林水産省などの管轄)の締め切りが迫り、多くの支援をさせて頂いております。

これとは異なるものとして、例えば、アルバイト採用後の半年後に正社員に転換すると一定の金額を助成してもらえる、厚生労働省管轄の助成金は、条件さえ合致すれば支給されるものですが、ここでは触れません。

他からの資金調達には、銀行借入、社債発行、増資など様々な方法がありますが、補助金は返済義務がない訳ですから、調達条件だけでいえば最も良いことに間違いありません。私も自社で数回申請し、ほぼ全てが採択されました。

補助金の実務的なデメリット

業績が良くても補助金を獲得したい。
このように考える経営者は多いのですが、使い方によっては、会社そのものに悪影響を与え、無駄なリソースを使ってしまうことになりかねません

このため、あえてデメリットについてお伝えしたいと思います。

1. 申請書作成は相応の工数がかかる

公的機関が審査するため、書類だけでその事業に魅力があり、妥当性が合理的である、と思われる書類作成能力が求められます。

2. 時間軸でのキャッシュフロー管理が必要

補助金は、申請から決定まで数ヶ月を要し、申請金額の当初の費用負担が自社であるため、キャッシュフローに不安があれば、数ヶ月分〜数年分の銀行借入等を、別のタスクとして取り組む必要があります。
例えば、設備投資であれば、その設備の納品が完了し、支払い完了後に、補助金が入金となります。

3. 事務処理の増加

補助金は、法令に則った経理処理をする必要があります。例えば、見積書、納品書、請求書、領収書、通帳の控えなどを保管する必要があります。
また、補助金のよっては、大きい支出の場合は、相見積が必要だったり、契約書が必要だったり、会議報告書や出張報告書などの各種報告書が必要だったり、支出を証明する様々な書類を揃えて、相応の期間保管しておかなくてはなりません。

ここまでは、補助金そのものの実務的な話ですが、時間軸を明確にし、しっかりとマネジメントすれば対応が可能です。

補助金の経営的なデメリット

問題は、現在進行形で変化している事業や市場と、公的機関との時間感覚のズレや、柔軟性の違いが、自社に悪影響を与える原因になり得る点です。

4. 経営判断の遅れ

事業を新たに立ち上げる、あるいは成長させるための時間軸を補助金に寄せ過ぎると、判断が遅れたり、機会損失に繋がる場合があります。

時間軸の主従関係は、あくまで事業そのものに置くのが本来的であることは、言うまでもありません。

5. 全額投資が前提、ピボットは不可

補助金がないとして、投資が必要な新規事業を実行に移す段階では、少額予算でトライしてみてPDCAを回し、成果が認められたものに投資を増やす、というのが低いリスクで取り組むオーソドックスな方法です。

これに対して、補助金を使って投資する場合は、始めから全額投資が基本です。この思い切った意思決定ができるのが補助金の魅力であり、だからこそ補助金に頼りたいという気持ちもよく分かります。

しかし、その事業がうまくいきそうもないため、あるいは市場が変化したため、当該事業を止めようとする場合、清算してゼロの状態に戻すのに、場合によってはかなりの工数や費用を要します。

本来雇わなくてよい人を雇ったり、連携しなくてよい企業と契約したため、数年に渡ってリソースを奪われてきた企業の社長とお会いしたことがあり、補助金申請したことを後悔し、嘆いていました。

また、補助金申請内容の細かな変更は、届け出により認められるものがほとんどですが、申請事業そのものの構造を大きく変えたいという意向は、その補助金申請を止めることと同意です。

すなわち、ピボット(事業の路線変更)に対応できないという特徴があります。ここまでに出費していれば、当然ながら回収できません。

「タダでお金がもらえるんだし、これまで払った税金を取り戻すんだ!」と鼻息が荒くなる社長も多いので、敢えてデメリットを紹介しました。

資金調達手段として、他の方法と比較すると魅力的であることに変わりはありません。しかし、使い方を誤ると、これまで築いてきた会社そのものに悪影響を与える諸刃の剣なのです。

くれぐれも、補助金がなくても取り組みたいと思え、成果の予兆が確認できた事業に、時間短縮が可能だから補助金を利用する、というスタンスでご利用されることをお勧めします。